バンド・サウンドの中核を担うトーマスが語る、
メシュガー・アンサンブルの構造と構築法
モダン・プログレッシブ・メタルの先駆者であるメシュガーより、ドラマー=トーマス・ハーケの最新インタビューをお届けしよう。プログレッシブ・メタルという枠組みについて、当人はどのように思っているのだろうか?
Interview by Takahide “THUNDER” Okami Translation by Tommy Morly Live Photo by Hiroyuki Yoshihama
ラッシュは10代の頃とても大きな存在で
今でも好きで聴いている。
―現代的プログレッシブ・メタル・シーンの顔と言えば、まずはメシュガーを思い起こすファンも多いと思います。ご自身としても “プログレッシブな音楽をプレイしている”という認識はある?
70年代や80年代のものと比べれば大分違うけど、“プログレッシブ・メタルをやっている”という自負はある。自分たちが《ジェント》だとは思っていないが、シーンのなかに位置づけられているのはわかっているよ。多くの後続バンドに“メシュガーはこのスタイルの先駆者だ”と言われて光栄だし、ずっとやってきたことが認められて嬉しくも思うな。かといってジェントというジャンルにこだっているわけではなく、常にプログレッシブ・ロックのバンドだと思ってきたよ。
―プログレッシブな音楽を作ってきたという自負がある、と。
ここで言うプログレッシブとはAC/DCの正反対なプレイのことで(笑)、常に限界に挑戦して新たなことを作ってきたつもりさ。従来なかったプレイ方法でアプローチし、自分たちでも聴いたことのない新しいサウンドにトライしてきたんだ。どのアルバムもその繰り返しだったので、うまくいった作品もあれば及第点といったものもあった。常に完璧を目指しているが、そこに達することはないのかもしれない。しかしその目的があるからこそ、オレらはモチベーションを保っていられるんだ。
―個人的な見解として、“プログレッシブ・ミュージック”の定義とはどういうものであると考えますか?
今までに聴いたことのあるものを、さらに遠くへ《Progress(=前進)》させたものだね。ただすでに多くのスタイルがやり尽くされていて、さらに先に行こうと複雑にプレイしても、それは楽しめるものから遠ざかってしまうよ。オレらは曲の流れを大切にしていて、曲のビートをしっかりと感じられるものにしたいと思っている。オールドスクールな考え方だけど、そもそもオレらは昔のイギリスのロックやベイエリア・スラッシュを聴いて育ったから。ああいった音楽のヴァイブを維持しながらも、リズム面で新しくアプローチしていきたいと思っているんだ。
―逆に、先人プログレ・バンドからの影響はありましたか?
もちろん、ある程度はあったね。ラッシュは10代の頃とても大きな存在で、今でも好きで聴いているし、ニール・パート(d)が亡くなったと聞いて本当に悲しかったよ。彼はオレのアイドルだったんだ。マリリオンも聴いたし、キング・クリムゾンも少しはカジったかな。でも10代の頃はほかにもNWOBHMのメロディックなバンドやアクセプトみたいなバンドも聴いていたよ。
―バンド加入時くらいでは?
メシュガーに加入した1988年から5年くらいは、アラン・ホールズワースやチック・コリアみたいなフュージョン・ロックも聴き、ドラムのスタイルに大きな影響を受けたね。特に当時はフレドリック(トーデンダル/g)を中心にそういった音楽にハマっていて、作曲には表われていないけどプレイにはフュージョン的なアプローチが刷り込まれていったんだ。当時のギター・ソロのサウンドにはかなり反映されている気がするよ。それが次第に収まっていくと同時に、自分たちらしいスタイルに変わっていったという感じだね。ライヴ・バンドならいつかは生でプレイしなくてはならない。
―では、作曲面について聞いていきたいと思います。制作初期の段階では、どれくらい形作られているものでしょう? ある程度ストレートな原型から、徐々にいろいろなテクスチャーを入れていく?
オレがリズミカルなアイディアを考え、それに合わせてリフをプレイするというのがほとんどだね。大体はラフなベーシックのリズムから始まり、それをさらに深堀りしていくんだ。そもそもドラムはプログラミングすることから始まっていて、曲の全体像がしっかりとつかめるまでオレらはバンドでプレイしないんだよね。例えば『ヴァイオレント・スリープ・オヴ・リーズン』(2016年)では1年半かけてパソコンのなかで全曲を組み立て続け、そこではゴーストノートまで詳細に詰めていった。
―そこまで細かく!
全曲が書けてから、初めてバンドでプレイしたんだ。ギターとベースはレコーディングしているわけだから充分練習できていたけど、オレはそこで初めてドラムをプレイすることになる(笑)。ただ、パソコン上のドラムを自分のドラミングに置き換える際にも、それをどう叩けばいいのかはハッキリとわかっていて。長年やってきて慣れてしまったし、ほかの誰かが持ってきたドラム・パターンでも最終的にうまくいくかどうかがわかるんだ。
―同作冒頭曲「クロックワークス」のイントロも、当然ながらひと筋縄ではいきません。どのような発起点から生まれたものでしょう?
これはドラム・キットで自由に叩いていたらクールなアイディアが浮かんできて、それをもとにプログラミングしていったんだ。この曲のほとんどの部分はドラムがもとになっていて、メロディよりもリズムを主軸にして作っている。イェンス(キッドマン/vo)が書く曲の場合はリフが主体となり、ドラムはかなりシンプルなものになっているだろうね。あのアルバム収録の「ノストラム」もドラムのリズムで作っていて、そのパターンに合うようにギターをエディットして詰めていったんだ。
―これまでも“実は変拍子ではない”ということを発言しているように、ポリリズムやスリップ・ビートを使いつつ、4/4 拍子に収まるプレイを聴かせていることが多いです。これは、逆に“4/4拍子の制約のなかでいろいろやってやるぜ”的な気持ちがあったりするのでしょうか?
「ダンサーズ・トゥ・ア・ディスコーダント・システム」(『オブゼン』2008年)や「アイ・アム・コロッサス」(『伏魔殿』2012年)みたいに3拍子や6/8拍子のようなフィーリングの曲も作ったことはあるけど、きちんと聴けば4/4拍子のストレートなビートなんだ。『ヴァイオレント・スリープ・オヴ・リーズン』の曲は全部4/4拍子だけど、小節をまたぐようなビートでプレイしている曲もあって、それがトリッキーに聴こえるんだろうね。例えば「フューチャー・ブリード・マシーン」(『デストロイ・イレース・インプルーヴ』1995年)は25年も前の曲だけど7/4拍子でプレイしているパートがあって、それは数少ない変拍子と言えるだろうな。ただギター・プレイヤーの視点でリフを分析しながら演奏すると、13/8拍子なんて曲もあるだろう。ただ、だとしてもそうアプローチしてはいないし、パルスは4/4拍子のままなんだ。
―プログラムから曲を作っていくという部分の最も顕著な例は、収録でもリズム・マシンを使った『キャッチ33』(2005年)だと思います。その手法から得られたものとは?
あのアルバムはニュークリア・ブラストとの最後の契約で、制作スケジュールがかなり押していたんだ。オレらとしてはアルバム全体で47分の1曲にしたいと思っていたけど、レーベル側から“いくつかのトラックに分けろ”と言われてしまった。バンドみんなでパソコンの前に座って頭脳を駆使して実験したアルバムで、とても楽しみながら作っていたから。みんなが納得するまでかなりの時間がかかったし、ドラム・パートを体で覚えるのに苦労し、ついにタイムアップが迫ってきた。
―おぉ。
そこで“どうして生ドラムにこだわる? そのために全部をレコーディングし直すのか?”という話になったし、生ドラムからやり直してあのサウンドスケープをどうやって再現するのかわからなくて。だから細かいことは気にせずに、そのまま出すことにしたんだ。もともとライヴを前提にしたアルバムではなかったけど、ファンには気に入られたので、15 分くらいの別バージョンとしてプレイすることになってさ。
―近年の“手数多い/ややこしい”系のバンドでは、補正をしたり音をサンプリングしていたりと、ほとんどドラム・マシンと変わらない音にしていることもあります。そういうものに対しては、どう感じますか?
ライヴ・バンドなら、いつかは生でプレイしなくてはならない。アルバムとライヴでのサウンドがあまりにも異なるものは、結局はうまくいかないさ。“いい出音を生み出したいのであれば、どんな手段であれベストを尽くせ”がオレの持論だけど、バンドとしてのあるべき姿を大切にしなければならない。すべてが正確すぎるとヴァイブを失ってしまうし、優先すべきはグリッドではなくハートだよ。マシンのような冷たいヴァイブがバンドのサウンドならそれは歓迎されるべきだろうけど、バンドらしいサウンドが欲しいなら完璧なマシンになろうとするのは考えものだよ。
―確かに。
オレらもリズムのアタマを揃える目的でドラムをグリッドに合わせたこともあったけど、それはタイトにさせるのが目的であって、マシンを目指したわけじゃない。『ヴァイオレント~』ではそういった操作は皆無で、いくつも重ねたテイクのなかからベストを選ぶという方法でやっている。エディットやサウンドの差し替えはしばらくやってないけど、さかのぼれば『オブゼン』のときにシンバルが気に入らなくてサンプルと置き換えたんだ。最近の技術だと気に入らないものがあれば何でも自由に入れ替えることができて、タムやバス・ドラムだって問題なく置き替えられてしまう。
―ですね。ただ、弊害も多いように感じますが。
そうさ。一度やり始めると止まらなくなり、完璧に近づくと同時に“これが、自分たちがやりたいものなのか?”という疑念にかられてくるものだ。正確さを求めることと完璧なプレイをすることには絶妙な違いがあって、バランスを持つべきだとも思っている。メタルってハードロックやパンクから来ているところもあって、そのフィーリングも引き継ぐべきだと思うんだ。あまりに磨きすぎるとメタルではなくなってしまうからさ。
すべてが正確すぎると、ヴァイブを失ってしまう。
優先すべきはグリッドではなくハートだよ。
ートーマス・ハーケ
◎続きは【メタルハマー・ジャパンVol.2】でどうぞ。