各国のミュージシャンが語る<新型コロナ・ウィルス対策>の現状
メタル・ミュージシャンに世界のコロナ事情を聞くインタビュー、その第7弾は、元アングラにしてメガデスのギタリスト、キコ・ルーレイロにご登場願おう。ブラジル出身のキコではあるが、取材時はフィンランドに滞在していた彼。しかし、アングラのメンバー、そして家族が住むブラジルの状況を常に気にかけている。
通訳:トミー・モーリー
※インタビューの本篇は、9月発売予定の『メタルハマー・ジャパンVol.3』にて!
握手はもちろん、ハグやキスも当たり前なんだ
—ブラジルをはじめとする南米は、今も油断のならない状況にありますね。あなたから見て、ブラジル政府の対応はどう映りましたか? 国民性や状況などを考えると、現状のような形にならざるを得なかった?
まずは政治の話からしなくちゃいけないよね(笑)。僕の両親や兄弟姉妹が住んでいる国だし、もちろんアングラの連中や仲のいい友人もたくさんいるから、彼らのことをとても心配しながらニュースを見ているよ。
—当然、心配ですよね
それに比べて日本は文化的な違いもあって、かなりコントロールできているという印象だ。初めて日本に行ったときも、風邪をひかないようにとマスクを着けている人を何人も見たよ。他者に迷惑をかけないという考え方も、僕たちの国では目にすることのないとても大きな違いだった。爆発的な感染が報告されたイタリアやブラジルというのはスキンシップが多い国で、握手はもちろん友人と会うときはハグやキスは当たり前なんだ。
—そのあたりは、日本人の習慣とは違いがありますね。
そうだね。初めてディナーに行くような間柄でもキスをすることがあるし、それは文化となっている。だから感染が広がったって何の驚きもないけど、この行動を変えなくちゃいけないと気づくまで時間がかかってしまった。
—文化としての行動を、一時的とはいえ変えなくてはいけないのは、大変なことだと思います。
最悪なのは、政府が何もメッセージを送らなかったことだ。それに僕ら国民は政府に対する不信感も強くて、それはここ数年の話ではなく、100年ぐらい前からずっと続いている。ひいてはそれが社会への接し方にもつながり、他者へのリスペクトが欠如することにつながっていった。感染者が多い国になってしまったのはこれらが理由とも言えるだろう。
—そうなんですね。
中国の状況を目にし、それが次第にスペインやイタリアへと広がり、時々刻々とブラジルに近付いていたのはみんな気づいていた。僕らは互いに触れ合う文化だし、貧しい国でもあるから感染が拡大すればヒドいことになるのはわかっていたはずさ。でも政府は“ウィルスに対して警戒心を持つことはクレイジーだ!”という具合に言いはじめた。アメリカだとトランプ大統領をはじめとした共和党が“大したことじゃない”と話を小さくして伝えていたし。ウィルスが存在していて国際社会が騒いでいたにも関わらず、“そんなのは作り話だ!”くらいの発言を続けていたよ。ブラジルの大統領はトランプ大統領とほぼ同じような考え方を持っていて、ツイッターなんかで誤った見解を発している。もちろん真摯な対応をしている政治家もいるけど、結局は政治の長がそういった姿勢を保ち続ける以上、国民は困惑するわけだ。
—そう、結局は弱い立場の人間が苦しむんです。
自然的に国民はロック・ダウン状態になったけど、もともと貧しい国だからすぐに働きに出かけなければならない。資源の乏しい国だし、明日食べるためには今日働かなければならないわけで、非常にタフな状況が続いているよ。僕はそういった専門家じゃないけど、もう少しうまいやり方があるはずだ。ブラジルの大統領やトランプはウィルスを政治の駆け引きの道具だと思っているようだけど、これは突然変異で生まれたものであり、科学的に向き合っていかなければならない。にも関わらず、彼らは科学を否定する。ブラジルの大統領が軍出身だということを踏まえれば、共産主義的な考えで接しているのも合点がいくさ。インターネットを中心に、世の中の多くの人たちがこの状況は危機的だと指摘していることに対し、もう耳を傾けるべきときが来たというのが僕の意見だね。
フィンランドで過ごしているうちに、飛行機に乗ること自体が危険になった
—メガデスとしては、ほかのメンバーはアメリカですよね? 年初のヨーロッパ・ツアー後から現在のような騒動になるまでの間、直接会ったりスタジオに入ったりということは?
まずは、僕が今どうしてフィンランドにいるかということから話をしよう。僕の子供たちはフィンランドで生まれ、普段は一家でカリフォルニアに住んでいる。今年はアルバムのレコーディングと2本の長いツアーをやるということで、かなりハードになる予定だった。
—ラム・オブ・ゴッド、トリヴィアム、イン・フレイムスとのサマー・ツアーなどですね。
そう。それが延期になってしまったので、家族みんなでフィンランドで過ごすことにしたんだ。今年の頭に行なったツアーが終わりにさしかかる頃、ウィルスの話を頻繁に聞くようになったけど、その時点では“中国で何かが起こっている”くらいの感覚だった。僕らは2月半ばにはイタリアでミート・アンド・グリートも実施したし、コンサートをしていたので、もしかしたらある意味感染の拡大に関与してしまったのかもしれない。
—確かに、完全なゼロとは言えない……ということではあると思いますが。
ヨーロッパでのツアーが終わったら、2週間ほどフィンランドで過ごしてメキシコのフェスに飛び立ち、レコーディングに向かう予定だった。レコーディングのあとにちょっと短いブレイクを挟んでから、またツアーが始まるという計画だったんだよ。でもフィンランドで過ごしているうちにコロナが世界的な現象となり、飛行機に乗ること自体が危険だということで計画を変えることにして。それにアメリカに行けたとしても、いつまた家族がいるフィンランドに戻って来られるかもわからなかったので、ここに滞在することにしたんだ。
—そういう理由だったんですか。現在の作業としては?
コンサートはすべてキャンセルとなったし、レコーディングについてはどういった方法でやるのがベストなのか模索しているところでもある。僕以外のメンバーは現在アメリカだけど、みんなバラバラなところに住んでいてさ。デイヴ(ムステイン/g、vo)はナッシュビル、ダーク(ヴェルビューレン/d)はロサンゼルス、デイヴィッド・エレフソンはフェニックスに住んでいる。みんな同じ国内とはいえ、集まるためには飛行機に乗らざるを得ない(笑)。
—広いですから(笑)。
去年の夏はオジーとツアーをする予定だったけどそれもキャンセルになってしまい、僕らはアルバムのレコーディングを行なうことにしてね。そうしたら今度はデイヴがガンであるという診断がくだされた。彼は化学療法を受けることにはなったけど、僕らはみんなナッシュビルに集まって2ヵ月くらい作曲作業をしていて。この時点でアルバムのレコーディングをすべてやり切れていたらよかったんだけど、デイヴは処置も受けていたのでレコーディングをしっかりと行なうところまでは持っていけなかった。そのかわり、しっかりしたデモを制作することはできたけどね。
—結果としてデイヴの容態は安定し、復帰となりファンは安心しました。
そうだね。そしてデイヴの治療の次のフェーズが始まり、みんな家に帰ったんだ。現在僕らはまだ曲をブラシュアップしている段階で、デイヴは歌詞を書き直したりしてゆっくりながら曲を成熟させようとしている。
アレンジしたりプレイすることなら、いくらでもできる状況にいるよ
—楽器チームとしては?
パート同士のつながりを確認したり、リフを付け加えたりということをしていて、曲はさらにいい状態になっているよ。時間を挟んでから曲を見つめ直すと、“ここを変えてみたらどうかな?”という客観的な見方ができるので、これはいいことでもある。僕らはまさにそのステージにいるし、現代ならファイルの送受信も簡単に行なえるのでまったく問題ないんだ。僕は最近ソロ・アルバム(『オープン・ソース』)を出したけど、多くの部分はリモートで作ったんだ。ベーシストのフェリッペ(アンドレオーリ)はブラジルでレコーディングをしてくれて、僕のほうからちょっとしたアイディアが浮かんだら“こんな風にプレイしてもらる?”とお願いすれば、それを送り直してくれた。
—まさに、現代的な制作スタイルですね。
そう、現代の音楽産業ではこのやり方がほぼ当たり前になっている。オーディオ・ファイルを送信し合うのも、高解像度の写真を送るのとほぼ変わらないし、4Kの映像ファイルの送受信に比べたらまったく大したことじゃないからさ。
—肌感として、本格的なバンド活動再開はどのような時期になると想像しますか?
今の時点では、本当に何も言えないかな。実は昨日デイヴと話をしたんだけど、彼もやっぱり“何も判断できない状態だ”と言っていたよ。彼は現在自身のスタジオで歌詞を書きながら歌入れを行なっている。プロデューサーは彼の近所に住んでいるので、ふたりは頻繁に会っているらしいんだ。作曲がほぼ終わっている現段階では、僕ができるのはリズム・ギターやソロを録音することくらいだけど、彼らの判断で状況が変わればやれることが増えるかもしれないね。
—ご自身的には、準備万端ではあると。
レコーディングのセッション・ファイル自体は持っているんで、アレンジしたりギターをプレイすることなら、いくらでもできる状態にいるよ。ただパンデミックが収束して飛行機による移動が簡単にならないことには、何かが劇的に変わることはないだろう。リリースに関してはレコード会社が時期を見計らって決めてくれるだろうし、この1年間で延期したさまざまなことを踏まえて決定されるだろう。
—今は我々も、終息と新作を待つばかりです。
昔よりもフレキシブルにリリースができるようにはなっているから、ベストなタイミングですべてが動き出すことだろう。曲の出来には本当に満足しているし、熟成している間にどんどんよくなっているのは自分でもよくわかっている。とても満足いく作品になるだろうね!
※インタビューの本篇は、9月発売予定の『メタルハマー・ジャパンVol.3』にて
8年ぶりのソロ・アルバムが発売中!
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各国のミュージシャンが語る<新型コロナ・ウィルス対策>の現状シリーズ