SYSTEM RESET
―Randy Blythe/LAMB OF GOD
本年7月にリリースされたラム・オブ・ゴッドの新作『Lamb of God』は、もう聴かれたことだろう。5年ぶり、かつバンド名を冠する作品ということで、その内容は素晴らしいのひと言。まさに獣の如く襲いかかるヴォーカル、エッジと粘りを両立させるギター・ワーク……と、バンドの旨味がこれでもかと濃縮されている。改めて他者が音楽的な講釈をする必要はなく、本作は“聴けばわかる”という域のものだ。
では、フロントマン=ランディ・ブライズを招いての本インタビューの趣旨とは? 彼は音楽を作ることを、エンターテインメントのみの事柄とは捉えていない。人生観から政治的理念まで、多様な要素を音楽活動に結びつけている。本稿にて、一般的な音楽誌ではなかなか聞くことのできない、彼のいち人間としての貴重な声を届けたいと思う。
Text by Kim Kelly Photo by Nick Fancher Interpretation by Mirai kawashima Original『METAL HAMMER』335
俺の聴覚も、どうにか完全にはイカれてはいないみたいだ。
“一時的自律ゾーンって聞いたことある?”
リッチモンド公共図書館の2 階にある静かな学習室に腰かけながら、ランディ・ブライズはそうたずねてきた。ついさっき私たちは何気なく、薄く暗い赤色の壁がまるで取調室のようだと口にしたのだ。苦笑いして、彼はこう答えた。
“俺は取調室に入ったことがあるけど、ここのほうがよっぽどマシだ”
冗談を言ったのではない。すぐにわかることだが、彼はもはや簡単に動じる男ではないのだ。最もビッグなヘヴィメタル・バンドのひとつのヴォーカリストとして、成功したフォトグラファーとして、ベストセラー作家として、そして不運にもチェコの刑務所を経験した者として、このラム・オブ・ゴッドのフロントマンは、あまりにも多くのことを見聞きしてきた。
まだパンク・ロックの駆け出しであった頃に働いていた、油まみれの簡易食堂から2ブロック離れたこの図書館で、多くの議論を醸し出したアナーキストの学者、ハキム・ベイによる理論を解説しながら、彼は硬い椅子にむしろリラックスして座っている。
《一時的自律ゾーン》とは、国家統制という構造の外部で経験される革命的自由のつかの間の期間のこと(※反乱を起こすという非日常的な行為は、人々を興奮させる。ただし反乱というのは革命達成までの一時的なものである……といった話)。ランディによれば、彼はそこに、自身の個人的幸福のための実現可能性の高い解決策、そして最高のヘヴィメタル体験を見出す。
“人々が集まって「ルールはなし。みんなでうまくやろう」ということになっても、いつも何者かがやってきて、台ナシにしてしまう。歴史を通じてずっとそうなのさ”
“だから、人々はその瞬間だけ、ある種の自由をエンジョイする。その瞬間だけが真に存在するものだから。いいライヴってのが一番の例だろう。問題が起こっても、コミュニティが自分たち自身で管理する。グループは力を合わせて対処し、みんな一緒に自由にやれる”
このフィーリングこそが、26年もの間、ランディにバンドを続けさせてきた。レコーディングが嫌いな彼は、私たちが昨晩「Memento Mori」のミュージック・ビデオの撮影現場を訪れたときには、哀れな様子だった。撮影が行なわれていたのは凍てつく倉庫だったということもあるが、そうではないときでも、彼は自分の仕事に付随するこういった部分を好んだことはない。彼にとってはライヴが生きがいであり、ほかのメンバーと違い、彼らの作る音楽が人々が日々を生き抜くための助けになっていることと同様に、何時間にも及ぶ移動さえも楽しんでいるのだ。
“レコードを作るのは楽しくない……少なくともラム・オブ・ゴッドとしてはね。ただ叫ぶだけでない、ほかのプロジェクトではもっと楽しいこともあったけど。メンバーで集まって一発録りできるんだったらいいんだけどさ、録音されたものをヘッドフォンで聴きながらプレイするんじゃ得られないエネルギーっていうものがあるんだ。だから、俺のヘッドフォンは耳をつんざく大音量じゃなくちゃダメなんだ。以前のアルバムでは、ステージと同じように歌うことができなくてね。どうしてもうまくいかないから、プロデューサーが妙案を思いついてさ。歌っているときにヘッドフォンから聴こえる自分の声に、デジタル・フィルターをかけたんだ。俺にお馴染みのクソみたいな会場のようなサウンドになるように。やってみたら、突然俺の声も「オーケー、これならどうすればいいかわかるぞ!」なんて感じになって。俺の聴覚も、どうにか完全にはイカれてはいないみたいだ”
◎続きは【メタルハマー・ジャパン Vol.3】でどうぞ