[ヘヴィの流儀#4]
イングヴェイが思うヘヴィ・サウンドとは?
ミュージシャンとは、自らの創造性を音楽という形へと昇華させ世に解き放つ芸術家だが、イングヴェイ・マルムスティーンほど、自分の感性に正直な人間はいないだろう。新作『パラベラム』にはコロナ期間中に作成した100に上る楽曲から選りすぐられたナンバーが並び、その全篇で怒涛のプレイを聴かせている。
もちろん、どの曲にも速さに引けを取らないメロディが内包されているわけだが、では彼は“他人よりもヘヴィであること”を意識することはあるのだろうか? ある意味ではバンド・サウンド以上にヘヴィな音域を誇るクラシックに大きく影響されたイングヴェイであるが、その彼の持つ“ヘヴィの流儀”、気になるところではないか。
Translation by Tommy Morly
俺のアルバムを気に入る人もいれば、気に入らない人もいるだろう。
しかし自分らしくないことをするつもりはない、それがイングヴェイ・マルムスティーンという男なんだ。
>イングヴェイ・マルムスティーン
―“イングヴェイ・マルムスティーンの音楽”と言えば、多くの人が“テクニカルかつメロディアス”というイメージを思い起こしますが、そもそも音楽を始めた少年時代、ハードな音楽そのものへの興味は持っていたものですか?
もちろんさ! 昔からハードでヘヴィな音楽を作っていたからね(笑)。15歳のときに聴いていたカセットテープには、ブラック・サバスが入っていた。ただ音楽には多彩な側面があって、俺が常に大切にしてきたのはメロディだったよ。モーツァルトが残した“メロディは音楽で、音楽はメロディだ”という言葉には完全に賛同するよ。
―ギターを本格的に始めたのはジミ・ヘンドリックスの映像(訃報ニュース)に衝撃を受けて、という話は有名ですが、その頃からハードなサウンドを求めていた?
そうとも言えるだろう。俺はクラシック一家で育ってきたから、家族はみんなオペラ声楽やヴァイオリン、ピアノなんかを演奏していて、4歳のときにヴァイオリン、5歳頃にはギターが与えられたよね。7歳のときジミがギターをぶっ壊している映像に衝撃を受け、本格的にギターをプレイすることになって。毎日10時間プレイして、9歳の頃には25歳ぐらいの大人ばかりのバンドでプレイするクレイジーなガキになっていたから。
―改めて、神童ですよね(笑)。
ただバッハやヴィヴァルディを聴いて育った俺にはブルースのペンタトニックがしっくりこなくて、それで対位法やペダル・ノートといったクラシックの手法を取り入れ、それらをヘヴィなサウンドでプレイすることにしたんだ。ヘヴィなドラムやギターは音を強めてくれたし、ブルースだとサウンドに限界があるような気もしたんだ。もちろんクラプトンを含めた連中も好きだし、あくまでもこれは俺の場合の話で、彼らとは少し違ったことがしたかったというのも忘れないでほしいね。
―ちなみに、当時の同級生はどんな音楽を聴いていましたか? やはりハードな音楽を聴くという面でも、早熟ではあった?
いや、俺が子供の頃にはすでにキッスやスウィート、アリス・クーパー、ステイタス・クォーが人気で、誰もが日本製の安っぽいギターを持っていたな(笑)。俺自身アルバムを買っていたわけじゃないし、テレビやラジオから彼らの曲が聴けたわけではないけど、周りのみんなが何を聴いていたのかは知っていたよ。
―バンドにおけるギター・サウンドを知ってからも、“ロックよりもオーケストラのほうが迫力があるじゃないか”といった考えを持っていたりは?
そもそも両者とも、根本的に違うものという認識だな。俺はオーケストラとエレキ・ギターのための協奏組曲を書いたこともあるけど、大所帯のオーケストラでもメロウなサウンドはプレイできるだろ? だからマーシャルのスタック・アンプを何台も積んだりツーバスのドラムで作り出すラウドなバンド・サウンドとは比べることができないよ。ともにダイナミクスが異なっていて、違った意味でのパワフルさがある。俺はクラシック音楽が好きだけど、それをそのままプレイしたいとは思っていないから。
―なるほど。
かと言って、ロックだけをプレイしたいわけでもない。クラシック音楽からかなり影響を受けていて、それでいてマーシャルのスタックやツーバスのドラムから生み出されるハードなサウンドが好きなんだ。俺はほかの誰かを気にしたことなんて一度もないし、俺は自分の道を歩むだけさ。
―マーラーやバッハ、ワーグナー、ベートーヴェンなど低音の強烈な作曲家の楽曲は、生楽器でありつつ、バンド・サウンドとはまた異なる迫力があると言えますからね。
わかっているじゃないか! ベートーヴェンからはとてもパワフルさを感じるし、バッハももちろんそうだよな。ワーグナーはコントラバスをC音まで下げるチューニングをしていたし、ベートーヴェンは聴覚に障害を抱えたからグランド・ピアノを特注して、ピアノが目立つようラウドにしていったっていうのもあるだろ。
―そうなんですよね。
歴史的背景を考えれば、演奏会場そのものがスピーカーのような音響特性を考えて作られていて、後方ではよりラウドに聴けるようにもなっているんだ。ただクラシック楽器ってヴォリュームだけに関して言えば、話し声程度のこともあるだろ。スタックのマーシャル・アンプから放たれる160dBなんて爆音はジェット機みたいだ。だからダイナミクスそのものが違うんだ。
◎続きは『METAL HAMMER JAPAN Vol.7』でどうぞ
◎イングヴェイ関連企画はまだまだ続く!
また同Vol.7で展開する企画《クラシック・ミュージシャンが解析するイングヴェイの音楽はどうクラシカルなのか!?》では、クラシック畑のミュージシャンがイングヴェイの楽曲を分析。メタル・ファンにとってはクラシカルの権化である王者の音楽だが、クラシック目線で見るとどうなのか!? こちらもぜひお楽しみください!
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『パラベラム』
キングレコード/KICP-4032