ニュー・アルバム、ニュー・メガデス、ニュー・ムステイン?
デイヴ・ムステイン、現在の心境を激白!
2016年にリリースされ、グラミー受賞曲も生み出した『ディストピア』から6年、前作を超える鋭さとともにメガデスが帰ってきた! 総帥デイヴ・ムステインの咽頭ガン治療に始まり、盟友デイヴィッド・エレフソンの不祥事、そしてこの世界的パンデミック……と、順調な活動とは程遠い時間を過ごしてきたバンドだが、その状況を跳ね返すが如く、新作『ザ・シック、ザ・ダイイング...アンド・ザ・デッド!』をリリース。“当代を予言した!?”と語られるナンバーも入るなど、発売前から大きな注目を集めた本アルバム。制作時の話に始まり、件のエレフソンへのメッセージなど新たな心境に入ったムステインは、何も隠すことなく我々に胸の内を明してくれたのだった。
Interpretation by Tommy Morly
久しぶりにすべての人に対して愛おしさを感じていて、
これは本当にグレイトなことだった。
俺はこのバンドを愛している。ファンたちはグレイトな時間を過ごしている。ツアーも素晴らしかったよ”。……ヘヴィメタル界では何やらおかしなことが起きている。あのデイヴ・ムステインが、とても清々しい気分で過ごしているからだ。いやむしろ、そもそも彼はそうあるべきなのだ。
グラミーを受賞した『ディストピア』から6年、メガデスはそれに続くアルバム『ザ・シック、ザ・ダイイング...アンド・ザ・デッド!』を今まさにリリースしようとしており、ドラマーにダーク・ヴェルビューレンを迎えて初となる本アルバムは、控えめに言っても2009年の『エンドゲーム』以来となるバンド最強のアルバムだろう。
アメリカ国内で行なわれた《ザ・メタル・ツアー・オブ・ジ・イヤー》の最終日公演を終えたフロントマン、デイヴ・ムステインを直撃。メガデスはラム・オブ・ゴッド、トリヴィアム、イン・フレイムスらと共同ヘッドライナーとして公演を重ね、来場したすべてのファンに素晴らしい時間を提供した。そして本日、テネシーの自宅からリフレッシュして健康的な姿で、最新のツアーで体験した心温まるエピソードを交え、デイヴは話し始める。
“ラインナップはグレイトで、オーディエンスは本当に嬉しそうだった。ショウが始まってから終わるまで、オーディエンスはずっとラウドなままだったよ。ツアーが終わってほかのバンドのみんなに別れを告げたとき、かなり久しぶりにすべての人に対して愛おしさを感じていて、これは本当にグレイトなことだった。ツアーは誰にとっても素晴らしいものとして終わり、兄弟愛が感じられていたから。メイデンや、もっと前にディオとまわったとき以降、そんなことは長らくなかったからさ。あのときの最後のショウなんて、ディオのメンバーが俺らのステージ中にフザけて遊びまわっていたんだ。アイツらは皆オムツを履いていたんだぜ、わかるかい(笑)? 俺はバンド同士が一緒にツアーをしながら、みんなでフザけていたことが恋しいんだ。毎晩街から街へと移動しても、誰とも仲良くならないのはつまらないからね。今回は確実にそういった意味で結束が強く保てていたよ”と、笑顔で語ってくれた。
デイヴは興奮気味に最近の体験についての話も続けてくれた。幾度となく交流を持ち続けてきたラム・オブ・ゴッドのマーク・モートンについて多大なる愛情を語り、トリヴィアムの声の主であるマシュー・キイチ・ヒーフィーの歌声に賛辞を贈る。かつてのデイヴには、トゲのある言動によって和を乱すところが一部あったことも認めざるを得ない。しかし現在では慈愛に満ち溢れた父のような振る舞いで音楽界の後輩たちについて誇らしげに語り、また、こんなにもエネルギッシュなパッケージでのツアーをまとめあげる責任感までをも楽しんでいる様子が垣間見られた。
“ある日、俺はどこかの会場の外で、次の州への移動の準備をしていたんだ。そこへ(ラム・オブ・ゴッドの)ジョン・キャンベルがやって来て、「これをあなたに言わなきゃならないんだ。あなたは本当に最高なヤツらばかりを集めてくれたよ。一体どうやったらこんなことができるのかわからないけど、コイツらはみんな今までで最高なヤツらだよ。本当にどいつもこいつも最高だぜ!」って言ってきたんだ。俺は笑いながら「これはやっと実現できたものなんだ!」と答えたさ。ショウがどれだけスムーズに進んでいって、そのためにどれだけの仕事が水面下で行なわれているのかって、バンドのメンバーはなかなか理解してくれないことなんだ。でも本当にグレイトに進んでいったよ。俺らはやれる限り少しでも多くプレイしていきたいんだ”。
信じられないかも知れないが、
「ドッグス・オブ・チョルノービリ」はラブソングなんだ。
我々がデイヴと最後に話をした際には、最終的に見事な勝利を収めることとなった壮絶な咽頭ガンとの闘いについて振り返ってくれた。それから2年、彼は還暦を迎えた男としては驚くほどにシャープで引き締まっており、これからの長期的な健康のためにやるべきことのすべてを行なっていると言える。
“俺はイイ時間を過ごしているよ。もちろん健康状態が優れなくてシンドイ夜を過ごすこともあったさ。毎晩ステージでは100%を出して少しでも長くプレイしたいし、そういうときほど時間は短く感じられるものなんだ。俺らはどういうわけか最後にプレイするなんていう特権をもらっていて、それはそれで楽しかったけど、その分ハードにプレイしなければならないし、特別なまでに最高のプレイをしなくちゃならない。でもそれってクールなことだよな。俺らにはそれができるからさ”と笑顔で語ってくれた。
もしデイヴ・ムステインの気分が優れず、素晴らしい時間を過ごせていなかったとしたら、このニュー・アルバムは一種の警報を鳴らすものとなっていただろう。伝統的なメガデスのスタイルさながらに、『ザ・シック、ザ・ダイイング...アンド・ザ・デッド!』は圧倒的にダークで獰猛な作品となっている。ダーティかつすさまじい速さの「ライフ・イン・ヘル」、シングル「ウィル・ビー・バック」、壮大に荒れ狂うスラッシュ曲「ナイト・ストーカーズ」や「ドッグス・オブ・チョルノービリ」と、今までバンドが作ってきたどの作品とも変わらず、一切の妥協がない。ひょっとしたら最も驚きを感じるのは、ブルータルさを持ち、<ロンドンの大疫病>へのエキセントリックな賛歌でもあるオープニング・タイトル曲だろうか。ここ数年間の世界にとって、ピッタリのアンセムなのしれないからだ。
しかし、もっと驚くのは、「ザ・シック、ザ・ダイイング...アンド・ザ・デッド!」がパンデミック以前に作曲されていたということで、彼はまるでノストラダムスなのかと疑わざるを得ない。
“そう、確かに遥か前に書いていた曲だ(笑)! でも俺のことを<ノストラダムスぶるんじゃない!>とか言うヤツがいるなら、俺はほかにも「ピース・セルズ」みたいな曲をたくさん作ってきたんだぜ、と言ってやるね。ただこの曲はコロナとは別のウィルス……ペストにインスパイアされているんだ。これはバルト海からシチリアまで渡った船に関する史実をもとに書いていて、ネズミやノミを介して伝播可能な病気であること、そしてどうしてこういったことが起こったかを歌っている。信じられないかもしれないが、これは実は「ロンドン橋落ちた」をかなり左派的に解釈したものでもある。俺がこの童謡の詩を読んでいたとき、これは不道徳な子供が女王に向けたものだってことを知ったんだ。詳しいところは覚えちゃいないが、「リング・ア・リング・オー・ローゼズ」の[a pocketful of posies, ashes, ashes, they all fall down../ポケットに花束さして、灰よ! 灰よ! すべてが降ってくる]ってヤツの解釈は知っているぜ。俺は曲中でこのことを歌っていて、ペストのとき、人々はシャツに花を挿してそこら中の死体の臭いを防いでいたんだ。俺がこの曲を書いたあと、多くの人がこの曲はコロナ・ウィルスについて歌っていると言い始めたから、俺は説明するようになったんだよ”。
では「ドッグス・オブ・チョルノービリ」についてはどうだろうか? デイヴよ、あなたにはウクライナでの戦争がわかっていたのか?
“信じられないかも知れないが、これはラブソングなんだ。10〜15年前に見た映画でのことなんだけど、これがまたクソみたいなB級SF映画でね(苦笑)。確かタイトルは『Chernobyl』とかいうヤツだったかな(※正しくは『Chernobyl Diaries』)。ウクライナへ旅に行ったガキどもが核反応施設にたどり着いたところで、乗っていた車が壊れるんだ。そこでヤツらが話していたことのひとつが、<みんなが避難したあとに残ったのが、彼らの飼い犬だった>ってことで。俺はなんてことだ!と思ったね。ほとんどの人たちは、命からがらに逃げだしたところで「しまった、犬を残してきてしまった!」となっていたってことだよな。だから、このアクシデントによって取り残されてしまった動物たちのことを思い描いたんだ。その取り残された犬たちを、愛する人たちに取り残される存在として、ラヴソングのなかでの比喩として使ってみたんだよ。女は男のもとを去っていき、犬はチョルノービリでの出来事みたいに取り残されるんだ。つまり男はその状況が理解できず、「どうしてこんなことになったんだ……?」となるのさ”。
「ドッグス・オブ・チョルノービリ」が希望のないラブソングであることを示すが如く、本曲は最後のセクションにて、放射能の被爆によってチョルノービリの人々がどのようなダメージを被ったのか詳細に描写しており、これはデイヴのガン治療を担当した放射線技師によって書かれている。
“いくつかの言葉と、チョルノービリで放射線被曝被害にあった人たちの中毒に関する情報が欲しい、と彼に相談したんだ。そうしたら、こんなに素晴らしいパートを書いてくれて……それを全部使わせてもらったよ”。
◎続きは『METAL HAMMER JAPAN Vol.11』 でどうぞ
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