パンデミックの最中に作られたメタリカの新作『72シーズンズ』……発売前から各サイトにて音源が公開され、そこからは彼らのルーツが垣間見られる王道的ヘヴィメタルを聴くことができたが、実は本アルバムはジェイムズ・ヘットフィールドによる最も暗い歌詞が綴られた楽曲も内包するものとなった。これはまるで、メタリカが薄暗い闇のなかを手探りで進んでいく姿にも見える……。本作で世界最大のメタル・バンドは何を伝え、そして何を見せようとしたのか。
Word by Dave Everley
Interpretation by Mirai Kawashima
『72シーズンズ』
メタリカが「ルクス・エテルナ」を発表した日、ラーズ・ウルリッヒは我慢ができなかった……ネット上で人々がどんなことを言っているのか、見ずにはいられなかったのだ。
彼の好奇心は理解できた。2022年11月28日、何の警告もなくリリースされた「ルクス・エテルナ」は6年ぶりに発表された新曲であり、その後リリースされる彼らの11枚目のオリジナル・スタジオ・アルバム『72シーズンズ』の見本となるものだった。間違いなく大ニュースであり、ラーズは誰もがこの曲に言いたいことがあるだろうとわかっていた。それもそのはず、メタリカのやることのすべてに対して、誰もが言いたいことを持っているのだから。そしてそれらは、必ずしもポジティブなものとは限らない。
“コメント欄を見ると決めたら、少なくとも俺は「自分個人へのことだとは受け止めないようにしなくちゃならない」と心に思っている”とラーズは言う。“ある程度距離を置かなくちゃいけないんだ。だけど、バンドをやっている人間で「コメントは見ない」という人間がいるなんて信じられないね”。
そして、世界最大のメタル・バンドの共同創設者であるこのドラマーは、人々がその曲をどう思ったのかを知るために、インターネットという激しい議論の場をのぞく覚悟を決めた。
“何て言うか……スクロールしてすべてのコメントを見るために、朝の4時まで起きているつもりはないけれど”と彼は言う。“だけど5年も6年も何も発表せず、「ルクス・エテルナ」みたいなものを何も知らされていない世界に投下したら、その反応を知りたくなるものだろ?”。
フタを開けてみると、反応の大半はポジティブなものであり、実際に本曲はそうあるべきナンバーだと言えるはずだ。「ルクス・エテルナ」は3分半の楽しく陽気なものであり、2008年の『デス・マグネティック』で聴かれる難解な複雑さとは遠い世界の曲であり、逆に2016年の『ハードワイアード...トゥ・セルフディストラクト』が持つこれ見よがしのパワーを拡大したようなものだ。デビュー・アルバム『キル・エム・オール』への、あるいはさらに以前のニュー・ウェイブ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィメタルのムーブメントへの逆行と思われるサウンドが、そのフレイバーのなかにさらに積み上げられていたのだ。
その後、挑戦的に前向きな2枚のシングル……荒れ狂う「スクリーミング・スーサイド」と、自らを切り刻む「イフ・ダークネス・ハド・ア・サン」が続いた。
この数年、曲作りやレコーディングに集中しながらも世界的なパンデミックに対処し、目立たない場所にいた“メタリカ・マシーン”は、しかし完璧に調整された状態であり、それが大きな音を立てて動き始めていたのだ。ただそんなメタリカ・マシーンも、観衆が思っているような完全な状況ではなかったようだ。
“俺たちはほかのみんなと同じように、どうすればできる限りのことがやれるのかを見つけ出そうと、手探りをしていたよ”とラーズは笑いながら言う。“ダラダラとZOOMをして「うう、これはどうしよう? あれはどうしよう?」ってね。メタリカはほかのものと同様、ガムテープで応急措置をしたメチャクチャな状況だったんだから”。
ラーズから我々[METAL HAMMER]に電話があったのは、2月の終わり。その時点で、彼がニュー・アルバムについて答えたふたつ目のインタビューであり、今持って自分が話していることを理解しようとしているところだった。
“正直なところ、俺自身もすっかり混乱しちまってね”と彼は呑気に言う。
数日後、ロバート・トゥルヒーヨと電話で話したとき、彼もほとんど同じ状況だった。20年間メタリカのベーシストを務めてきた彼は、「ルクス・エテルナ」が発表されたとき、これが発表されることすら知らなかった。
“翌朝、友人たちからメッセージが来始めたんだ。「ワォ、新曲は素晴らしいな。ビデオはすごいね」って”と彼は言う。“この曲が発表されることすら知らなかったんだよ。メンバーの一部が知らなかったんだから、秘密を守ることに成功したということだろうね”。
もはや誰も秘密を守る必要はない。『72シーズンズ』は4月14日、ついに発売となる。「ルクス・エテルナ」が高めた期待とは裏腹に、アルバム・タイトルは“子供時代の経験が、いかに成人期を形成するものなのか”であるという。
フロントマンのジェイムズ・ヘットフィールドによる主張はさておき、これはまったくもってノスタルジックな旅ではない。この12曲入りのアルバムは、モダンで、同時に時代を超越した恐ろしいメタル作品だ。歌詞的には、77分に渡る苦痛、自信喪失、フラストレーション……そして突き詰めれば希望の咆哮であり、少なくともより“ブラックなアルバム”だ。
これはドラマチックな状況下でレコーディングされた初めてのアルバムではない。『メタル・ジャスティス』、『メタリカ』、そしてとりわけ『セイント・アンガー』はそれなりの混乱を抱えていた。しかし、『72シーズンズ』は、世界的パンデミックという困難を背景に制作された。“ロックダウン・アルバム”について語ることはありきたりなこととなったが、『72シーズンズ』こそまさに“それ”である。
すべてのなかで最大のロックダウン・アルバムでありながら、うまくすればこのまま過去のなかに消え去ってくれる時代に終止符を打ちうる作品でもある。
“レコーディングはロックダウン下での俺たちに目的を与えてくれた”とラーズは言う。“それに、あたかもお互いにコミュニケーションを取り、連絡をし、暗闇のなかにいくばくかの光を見つけようとしているかのようだった。あの数年間のエネルギーや絶望を、何かポジティブなものへと変えられる気がしてね”。
◎インタビューの続きも近日公開予定! お楽しみに!
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