ついにインディアン・メタルがヘッドライン公演!
BLOODYWOODのヘヴィで踊れる熱い夜!
2023年6月29日(木)@Spotify O-EAST/東京・渋谷
文:メタルハマー・ジャパン編集部
今もってメタル/ラウド・ミュージックの本場は米〜欧州であり、日々新しさと過激さをあわせ持ったバンドが生まれている。しかし、バンドの数が多くセオリーも確立されている分、斬新さに驚くということにはなりづらいとも言えるのではないだろうか。
そこに切り込む新しい波として注目されているのが、上記地域以外からのバンド……特にアジア/オセアニア系だ。パンデミック最初期の影響を受け来日公演が中止となってしまったモンゴル出身のザ・フー、南島のリズムとスラッシュを融合させたニュージーランド出身のエイリアン・ウェポンリー、ヒジャブをかぶりヘヴィロックをプレイするインドネシア女性3人組のヴォイス・オブ・パーセプロットなど、これまでのメタルとはまた違ったアイデンティティでシーンに驚きを提供してくれている。
そのなかでも特に注目株なのが、この度初のヘッドライン日本公演を行なったインドはニューデリー出身のBLOODYWOODだ。昨年《フジロック・フェスティバル》にて先行来日は果たしていたが、ラウド・ミュージック・ファンの前でフル・ショウを見せたのは今回が最初であり、その真価が問われる夜になったと言えるだろう。そしてそれは、完全に遂行されたのだった。
前述のとおり日本でのフル・ショウは初めてということで、リハーサルも長くとられていた東京公演。大阪公演の翌日であり、ステージMCでも訪日までの移動の大変さを語っていたが、疲労もなんのその、じっくりと日本の機材、ステージの感触を試していた。
その裏では、すでに多くのファンがグッズを手にするべく列を作っている。もちろんメタル系バンドT・シャツを着た人が多いのだが、年齢層の幅は広く、他ジャンルのリスナーと思われる人も少なくない印象だ。ソールド・アウト公演でもあり、改めて注目度の高さを感じる。もちろん開場ののちはすぐにフロアがパンパンとなり、コロナ禍以降、同サイズのライヴハウスでのメタル系コンサートでは久しぶりの光景なのではないだろうか。
定刻を少し過ぎてオープニング・アクトのMELT4が登場。80sハード/歌謡ロックを感じさせるバンドで、カバー曲を織り交ぜながらストレートな音で会場を盛り上げる。楽曲がわかりやすいため、BLOODYWOODファンもすぐに一体になれた様子だ。
そんな彼らの好演で温まったステージに、いよいよインドからやってきた6人組が登場する!
▲MELT4
BGMとともにメンバーが徐々に登壇するが、すでにオーディエンスからは“ブラッディウッ!”と歓声が上がる。早くもフロアの熱気は最高潮だ! ラウル(ラップ・ヴォーカル)とジャヤン(ヴォーカル)はそこをさらに扇動し、サルタックのドール(インド式の両面大鼓)のカンカン!という力強い音がこだまする。この段階で会場は一気にインドのお祭りの様相。いつものメタル・ステージとはひと味違う!
1曲目は、昨年リリースされた1stアルバム『Rakshak』のオープニング・トラックでもある「Gaddaar」だ。詳しい楽器名はわからいが、いかにも民族音楽らしい弦楽器の音と怒涛のリズム、そしてジャヤンのシャウトが一体となった、BLOODYWOODを説明するのに最適なナンバーである。途中にはラウルのラップ、そしてジャヤンのもうひとつの歌唱である高域の――これも民族音楽らしいメロディの――雄叫びが繰り出され、オーディエンスの度肝を抜いていく。バンドの始動は2016年で、前述のフェスに出演はしているもののまだまだ経験値的には浅いとも言えるが、そんなことはまったく感じさせない堂々たるパフォーマンスである。
このバンドの頭脳であり創設者なのが、ギタリストのカラン。母国では弁護士でもある彼は非常にやわらかなナイスガイなのだが、ステージ上ではあの笑顔は嘘だったのでは……と思わせるような鬼気迫る表情でギターをプレイする。BLOODYWOODのヘヴィさの肝はリズムにあるため、印象的なギター・フレーズを弾くというタイプではないが、いわゆるジェント系サウンドでのチャグ・リフでバンドの攻撃的なサウンドを作り上げていく。続く「BSDK.exe」、「Aaj」でもノンストップで圧倒。
密林のようなイントロ、3拍子のジェント・リフ、そこからのヘヴィなラップで攻め込む「Dana Dan」も非常に彼ららし一曲だ。リンプ・ビズキットやシステム・オブ・ア・ダウン的な(2000年代での)アメリカン・ニューメタル・スタイルも内包しつつ、各所にこれまでのメタルでは聴くことのなかったインド流トラディショナルが入り、唯一無二の音楽を作っている。コーラスの掛け合いもバッチリで、早くも場内を一体にする楽曲を持っているのが素晴らしい。
ここまで書いたように、独特のリズム、民族楽器が重要な役割を担っているBLOODYWOODの音楽。「Jee Veerey」ではカラン自らが横笛を吹き、楽曲の雰囲気作りに大きく貢献している(曲によっては同期の場合もあり)。ドールの音も決定的で、これが入ってきただけで一気にインドへワープさせてくれる。パーマネントなメンバーはカラン、ジャヤン、ラウルの3人ということで、サルタックはときにステージ脇に引っ込むこともあるのだが、“衣装もらしい”彼が出てきてドールを叩き、かつ踊り回るパフォーマンスは、なくてはならない要素だろう。
各曲で聴こえる跳ねたリズムも民族楽器とともに重要な要素。「Machi Bhaskar」ほか、ノリノリ・パートで出てくる早いシャッフルも、やはり非常に土着的なものを感じさせてくれる。これはブルースでも日本の盆踊りのリズムでも同じと言えば同じだが、それをハイテンポでループさせ、かつ楽器やヴォーカルの独特のメロディとマッチアップすることで、彼らにしか持ち得ないインディア・ヘヴィとなるのである。満員のフロアからは、本当にお祭りのようなポジティブな熱気が上がっている!
ショウも終演に近づき、メンバー紹介を経てプレイされたのが「Ari Ari」だ。カバー(のカバー)である本曲でその名を広めた彼ら。日本では原曲自体がそもそも知られていないが、会場に集まったファンにとってはもうお馴染み……聴きたかった曲という具合で、曲に合わせて手を振り声を出す。曲中にはジャヤンとサルタックが客席のなかに突撃! 持ち上げられたドールがまるで酒樽のようにも見え、ボリウッド映画のダンス・パーティ・シーンさながらのひと幕となったのだった(笑)。そして本曲にて本篇は終了……も、もちろんまだ聴き足りない!
そんなファンに声援に引き戻され、バンドはラストとなる「Gaddaar」をプレイ。そう、冒頭でプレイされた曲だが、正直まったく違和感なく入ってきた。インド式高音メロディ、米式ラップ、横笛、ハネたリズム……と、改めて彼らのアイデンティティが満載の曲であり、フロア中がジャンプしてその音楽世界に入っていく。メンバー&観客全員が燃焼しきり、ステージ上で記念撮影を行なったのち、メンバーは右に左にとフロアへ挨拶をしステージを降りていった。その後も声援が続いたが、客電があがり、この夜の宴は終わったのだった。
本誌[METAL HAMMER JAPAN]を含め“今、こんなバンドが出てきている!”という情報が先行していたため、期待度がかなり上がったヘッドライン公演だったが、果たして事前の噂を凌駕する個性の溢れたステージを見ることができた。
もちろんこれまでにないアイディアを伴った音楽であることが重要ではあるのだが、さらに大切なのは、純粋に楽曲がカッコよくヘヴィであるということ。BLOODYWOODは、その両面をバランス良く持っているのだ。かつ大きくは“メタル/ラウド系”にくくられるものの、そこだけにとどまらない、例えばレイヴのイベントに近いノリも曲々で感じられ、そこが幅広いリスナーから支持を得ている理由だろうと納得。
昨年発表した『Rakshak』は過去曲も含めたアルバムで、バンドのカラーを特に強調した作品だ。そしてそれは大成功となった。だからリスナーからの大きな反応を得たのちとなる次作は、試金石になる。インド色を強く出せば同じように感じられてしまうかもしれないし、それを薄めてしまっては、ファンが求めるものとの乖離が出てしまうかもしれない。やはり、彼らの今後からも目が離せない!