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【メタリカ】ニュー・アルバム『72シーズンズ』発売記念! ラーズ・ウルリッヒ&ロバート・トゥルヒーヨ最新インタビュー<②>

 パンデミックの最中に作られたメタリカの新作『72シーズンズ』……発売前から各サイトにて音源が公開され、そこからは彼らのルーツが垣間見られる王道的ヘヴィメタルを聴くことができたが、実は本アルバムはジェイムズ・ヘットフィールドによる最も暗い歌詞が綴られた楽曲も内包するものとなった。これはまるで、メタリカが薄暗い闇のなかを手探りで進んでいく姿にも見える……。本作で世界最大のメタル・バンドは何を伝え、そして何を見せようとしたのか。前回の【メタリカ】ニュー・アルバム『72シーズンズ』発売記念! ラーズ・ウルリッヒ&ロバート・トゥルヒーヨ最新インタビュー<①>に続き、彼らの言葉でバンドからのメッセージを探り出そう。

Word by Dave Everley
Interpretation by Mirai Kawashima

 
『72シーズンズ』

 

 作が出ると、バンドは次のアルバムについて考え始めると推測するのは、ファンにとって理想的な流れだが、メタリカはそうしない。彼らのクリエイティブなプロセスは長く極めて慎重であり、また“ランダムに作られたピースがピタリとハマるまでアレンジし続ける”というような、アーティスティックなエネルギーの流れでもない。
 それぞれの新しいクリエイティブなサイクルは、サウンド・チェック中や、ギグの際に毎回バックステージにセットされるチューニング・ルームで集められた何百ものデジタル・レコーディングから、ラーズがリフを掘り出す作業から始まる。アイデアは<Aリスト><Bリスト>に分けられたり、<5〜3つ星>を付与されたりする。だがこの時点では、全体の計画……これらがどうシェイプアップされ組み合わされるのかのヴィジョンは存在しない。
 “ロマンチックに語れたらいいんだけどね。「ただ座っていれば、行き先が決まる」なんていう具合に。でも、基本的にただの作業なんだ”とはラーズのセリフだ。“1曲書いて、また次の曲を書き、最終的にアルバムになるのさ”。今回はCovid-19という巨大で複雑な要因があったこと以外は。
 パンデミックが起こり、アメリカの大部分がロックダウンに突入し国内すべての計画が被害を負ったとき、しかしメタリカはニュー・アルバムに取りかかってすらいなかった。
 “俺たちは何十年もスケジュールを立てて生きてきた。「オーケー、1ヵ月ツアーをして、これを6ヵ月以内にやって、8ヵ月後にはスタジオに入ろう」ってね”とラーズは言う。“だから、一体どんなものなのかがまったくわからない不確定要素があると、自信を奪われてしまうんだよ”

 

 2020年5月、ジェイムズが『メタル・ジャスティス』のオープニング・トラックである「ブラッケンド」のアコースティック・バージョンをリモートで具体化しようとバンドに提案したとき、物事は少しだけ動き出した。
 “本当に、あれは何かの始まりだった”とロバートは語る。
 “あれで俺たちのホーム・スタジオは強制的にエンジンがかけられ、マシーンが動き始めた。それ以降も「もっとアコースティック・ナンバーをやろうか?」みたいな感じになってさ。でも、そして俺たちは全員こう言ったんだ。「いや、ほかの誰もが自分たちの曲のアコースティック・カバーをやっているから、何かオリジナルなものを書こう。そうしよう」ってね”
 あの頃、同じシチュエーションにいたすべてのバンドと同様に、彼らも最初はプロデューサーのグレッグ・フィデルマン監督のもと、リモートでジャムをするなど、できることを何とかやっていた。
 “3ヵ所に分かれてZOOM会議をしながら、どのボタンを押しゃいいのか理解しようと頑張っていたよ”とラーズは要約する。
 そして、そういったことが数ヵ月続いた。“俺たちに突きつけられた困難が、あのクリエイティブな火に着火し、創作への飢えと欲望を作り出す助けになったんだと思う”とロバートは加えるが、ラーズの答えはそれほどドラマチックではない。“あれは、どれもかなりメチャクチャだったよ(笑)”と彼は楽しそうに言うのだった。
 2020年11月、バンドは《オール・ウィズイン・マイ・ハンズ》基金のためのアコースティック・ベネフィット・ショウのライヴ・ストリームのため、サン・ラファエルにあるメタリカHQ(ヘッドクウォーター)に集まった。そのとき、物事は解決し始めていた。これはパンデミックが始まって以来、彼ら全員が集まった初めての機会であり、バンドに同じ部屋で新曲をプレイするためのチャンスを提供したのだ。
 “おもしろいよ、数日前にあのときのビデオを観返したんだけど、俺たち全員マスクをしていて”とラーズは言う。“そういう意味で、あれは間違いなくロックダウンのレコードさ”
 制限が緩和されるにつれ、作業は慎重に、しかし確実に進んだ。彼らはコロナを真面目に受け止めていた。特にその後遺症の可能性については。“その後10年間肺活量に影響を与えるなんていう恐ろしいことを聞いたから、それにふさわしい扱いをしたんだ”とラーズ。“1日に37回検査をしたりね(笑)”

 

 感とは反対に、スタジオからまったく離れられないことは、助けにはならなかった。メタリカはここまでの“3つ目のギター・ソロだったとしても、つなぎの異なる17個のバージョンを聴き続ける”という退屈な仕事から逃れ、自らに大局観と集中力を与えるため、ツアーやフェスティバルへ参加。レコーディング・セッションに中断を設けていた。
 “20〜30代の頃は、ただ直感に従っていれば良かった”とラーズは言う。“やったことのすべてで、一度も間違った判断はなかった。今は、何をやるにしても10の違った方法がある。経験が増えるにつれ、選択肢も増えるんだ。「ヘイ、これはカッコいいリフだな。少し遅くしてみたらどうだろう? keyを変えたらどうだろう?」なんて感じで、あっという間にそのリフの7つのバージョンができあがっちまう。そしてどれがいのいか、1日かけて考えるんだ”
 “『ライド・ザ・ライトニング』を作っていたとき、俺たちは2月28日にスタジオを出なくてはならなかった。29日に録音するという選択肢はなかったんだ。だってお金がなかったから”と彼は続ける。
 “だからあのレコードは、28日に仕上げられた。今だったら奴らはどうしただろう?”と彼は笑う。“俺たちのスタジオから、俺たち自身を追い出すのか?”
 当然、メタリカを彼らのスタジオから追い出す者は誰もいない。代わりに、バンドは『72シーズンズ』の完成へと少しずつ進み、ついに22年の終わりにそれを完成させた。
 “レコードを作るというのは、18ヵ月という期間で1万2247個の決断をし、そのなかで「正しいものの数、が誤ったものを上回っている」ことを願うということなんだよ”とラーズは言う。“そしてその後の数年間も、正解はわからない。いまだそのプロセスでハイになっているんだだからさ”

 

【メタリカ】ニュー・アルバム『72シーズンズ』発売記念! ラーズ・ウルリッヒ&ロバート・トゥルヒーヨ最新インタビュー<①> はこちらへどうぞ!

 

 
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