これまで以上にライヴを意識した
10年ぶり描き下ろしアルバム!
実は、純粋な描き下ろし作品としては10年ぶりになるというスティーヴ・ヴァイのニュー・アルバム『インヴァイオレット』は、かなりライヴを意識して作った作品でもあるという。もちろんギター・ファンにとって刺激的なテクニックが含まれた楽曲群ではあるが、プレイヤーではなくとも引き込まれるナンバーが並んでいるのだ。
コロナによって初期計画が変更となり、また制作前には肩の手術を行なうなど、ある意味イレギュラーな流れのなかでできあがったアルバムであるが、彼に新しい意識を芽生えさせたとも言える重要作になったのである。
Interpretation by Mirai Kawashima
“この状況をどう生かすか”を自問すれば、
パニックにならずにいられる。
―今作『インヴァイオレット』は、実に10年ぶりの描き下ろしギター・インスト作となりました。コロナ禍での紆余曲折があり、この形になったと聞いています。そもそもは“ヴォーカルありアコースティック作”として進んでいたようですね。
『パッション・アンド・ウォーフェア』の25周年盤とともに『モダン・プリミティヴ』をリリースした際に、大々的なツアーをしてね。その後オランダのオーケストラとの共演に取りかかり、1年近く費やしたよ。そこから『リアル・イリュージョンズ』三部作構想の3作目を作るつもりで、たっぷりとヴォーカルを入れた濃密なアルバムを計画していたんだ。その最中にロックダウンを迎えて、僕らミュージシャンたちは皆壊滅的な状況に追い込まれた。
―世界中のミュージシャンが同様の状況となりました。
演奏の場を奪われた我々は新たなコミュニケーション方法を模索し、僕はファンに向けてSNSを介してアップロードすることにしたんだ。ここでは状況に抗わずに受け入れて、ポジティブな解決策を模索することが重要で、“この状況をどう生かすのか、どうすれば得るものがあるのか”と自問すれば、パニックや自暴自棄にならずにいられるんだ。
―さすが、冷静ですね。
そこで僕は三部作アルバムの計画を止め、ポッドキャストのように話をする映像をYouTubeなどで配信し始めてさ。それからギター・テクニックの開発を目指し、“ジョイント・シフト”という難度の高い技術を新たに身に着け、それは今作の「キャンドルパワー」となってビデオにもアップしているよ。
―そのキャリアを持って、なお新技術の練磨に励むというのがスゴいです。
さらに僕としては珍しいアコースティック・ギターの弾き語りで「ザ・ムーン・アンド・アイ」を披露してみたら、これもレスポンスが良かったんだ。ライヴではバンドのなかでこのスタイルをやったこともあったけど、アコギと歌だけのアルバムをずっとやりたいと思って長年曲を作ってきたから。やれる曲は限られるけど、僕は自分の声が好きで、アルバムを作るときだと感じたんだね。
―ただ、そのアコースティック・ギター演奏によって、腕周りに不調が現われたんですよね?
録音はけっこう進めていたんだけど、僕の肩が悲鳴を上げてしまって。5年くらい前から不調を抱えてきたけど、これは50年くらいヘンなスタイルでプレイしてきたからなんだろう(笑)。普段から健康な僕だけど、骨格の歪みが発生していたんだ。
―そして、手術に至ったという。
肩の手術をしてくれたナップ医師が着用させた三角巾を“ナップサック”と呼んでいて、片腕を釣った状態でギターを弾いたときに“片腕だけで曲を書くぞ!”と思い立ってさ。レガートでプレイするだけなら簡単だけど、曲として楽しめるものを目指し、映像を観なければ片手でプレイしているとわからないくらい質の高い曲にしたかったから。
―そして、収録曲のひとつである「ナップサック」が完成したんですね。
そのとおり。そして、これがきっかけでアコースティックからエレクトリック・ギターのアルバムに頭がシフトし、ツアーに出ることも思い描けてしまった(笑)。それからは『インヴァイオレット』に集中して、一気に作っていったという感じかな。前作から何年ぶりだってくらいスパンが空いているけど、さまざまなプロジェクトに参加している分、そんなに時間をかけて作った気はしないんだけどね。
◎続きは『METAL HAMMER JAPAN Vol.9』 でどうぞ
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